2011年2月28日月曜日

高嶺格「とおくてよくみえない」の感想

同じ情報や物や人を見ている私たちは、同じ方向を向き、同じ思考を持つようになってしまっている。
誰かが右だと言えば右。
左だと言えば左。
誰かがそれを美しいと言えば、それを美しいと思うようになり、
誰かがその国や人を批判すれば、同じように、またはそれ以上に批判する。
みんながそれを見ていると知れば、自分もそれを見ずにはいられない。
特にネットの中の世界では、そうした事が日々繰り返されている。
そしてその積み重ねの末、恐ろしいことに、ついにはそれがおかしいということすら疑わなくなってしまう。

しかし、そこに一人の現代美術家によって鳴らされるアラームは、私たちの頭の片隅で眠っている真実を見事に呼び起こしてくれる。
自分の価値観は、どこの誰かもわからない、多くの人から生成された共通の価値観の一部にすぎないということを。

この展覧会は本当に素晴らしかった。
高嶺格という現代美術家のフィルターを通して自分をメタ認知し、自分の思考自体が滑稽だったとわかったあの瞬間。
その時、私の心は打ち砕かれ、ようやく自由を手にしたような気持ちになったのです。